◇◇ 第1章 桜の咲くころ ◇◇

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「はぁ~っ、今日もいい天気!さぁ~今日もがんばるぞぉ~」 いつもの桜の木の下で『がんばる宣言』をして、そっと自分を奮い立たせる。 気付けば、これが毎朝の習慣になっていた。 あたし……桜井璃子。この春から新入社員。 所属部署が決まるまでの約1ヶ月、新入社員は全員、物流センター業務を行う。 パートさんと一緒に、倉庫の商品を管理し、商品を覚える研修を兼ねているのだ。 新入社員は、この1ヶ月は誰にも紹介されず、この暗い倉庫で出荷業務に明け暮れる。 これがこの会社、『岩崎コーポレーション』の伝統。 「まるでシンデレラだわっ」 同期の朋美がグチをもらす。 「シンデレラかぁ~、いい表現するねっ」 妙に感心するあたし。 「大丈夫!明日にはきっと王子さまが私を迎えに来るはずっ」 朋美は、特に倉庫担当から解放される日を待ちに待っていた。 そう、明日には所属部署が発表され、やっと社員の皆さんと顔合わせ。 ついに階上のフロアーデビュー…… でもあたしはというと、この一ヶ月可愛がってくれたパートさんたちとの日常が終わることに、なんとも言えない寂しさを感じていた。
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