二匹目

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   私のハッキリとした返答に、土方の眉があり得ない程に寄った。 「腑に落ちねぇこと言いやがる。 まぁ、いい……こればっかりはアイツに聞かねぇと分からねぇかんなァ」  ボソボソと言った土方の言葉の意味がよく分からないけど……平和な世を想像してなかったっていうのは伝わってきてる。  どうして殺生が当たり前と思ったの?  平和すぎる世界だと知ってるから……疑問でしかない。  ただ……、 「テメェ……春日だな。 今日から住み込みで女中しろ」  土方のこの一言で、そんな疑問は吹き飛んだ。 「まじっすかぁ!? やったぁぁあああ!」  見事に女中採用頂きましたぁぁあああ!  やっばーい! あの新撰組の女中じゃん……これ……逆ハーのフラグがゲットできたんじゃない!?  別に逆ハー期待してたわけじゃないけどさ、小説の中では……あるあるパターンで。  しかも、私が新撰組の女中なんて……小説の中に居るみたいで嬉しい!  ということは……、  沖田総司にも会えるってことだよね……?  この時、浮わつく気持ちと喜びで、私は何も考えれていなかったんだ。  きっと、どういう世界にいるのか考えれていたとしても、現実を目の当たりしてないから、気づくことさえなかったと思う。  この世は、激動の幕末。想像を絶するくらい残酷で、忙しなく流れる波に乗り遅れた先には死があるというのに、私は少しも考えていなかった。  そして、既に歴史が変わり出していたことにも……気づいていなかった。     
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