浅葱色

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  「信じてるわけない……ですよね?」  心配そうに俺を見る山崎に、頷いて返した。 「あぁ……」 「えらい歯切れが悪いみたいやけど……」 「信じちゃいねぇ。俺ァ信じたフリをしただけだ」  全部とは言わねぇが……フリだ。  春日仁菜の言ったことは、真に受けるには現実味がない。  死んで世に落ちただけでなく、考えることも出来ねぇくらい遠い先から来たなんざ……信じれるもんじゃねぇ。  それに……信じたくもねぇしな。  言ってることを信じちまったら、俺らが毎日考えて進む一歩が……どう考えても先が決まっていて、今が無意味な時間だと思えちまう。  時を遡ってここに来たってのは、そうことだろう? 「なんや、螢っ子と同じこと言うてましたね……死んだら京に居たって」  山崎と俺の気づくとこは同じで、それ故に俺の頭は分からねぇことだらけだった。 「同じことを言ってたが、人間性がえれぇ違いだ。 春日ってのは、アイツと違って気配も読めねぇし、頭がゆるすぎると思わねぇか? とんだ阿呆女が来たと思ったぜ」 「気配云々は気づかんフリかてできる……せやけど、確かに雰囲気はゆるすぎると思います」  頭もゆるいが、雰囲気もゆるい。  あんだけ隙がある奴は、見たこともねぇ。  普通の町娘にしたって、ちゃんと何が危険かわかっている。  捕縛されたってのに、愚痴から入って口ごもり、しまいには泣いて……。状況の一つも読めねぇで考え事ができるなんてのは、阿呆だからだろう。  そして、あれだけ阿呆になれるのは、相当大事に育てられて、殺生なんて知らない所に居たからに違いねぇ。  まるで、馬鹿にしているようにも感じる。  緊張に値する価値もない、と言いたげな態度。  ゆるい空気が、そうも取れた。    
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