浅葱色

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   嘘を見抜けると思ったが……見抜いちまってはいけねぇこともある。  阿呆女が信じられねぇ話をしている時、一つも嘘をついているような表情はしてなかった。  方言以外は。  だからと鵜呑みにする程、俺は優しくねぇし、お人好しでもねぇ。  全て演技であり、出し抜かれる……なんて可能性がある限りは、疑ったままで損はねぇだろ。 「林に春日を監視させろ。源さんに変えて、斉藤に面倒を見させる。 山崎、お前は二条を探し出せ。 春日は糞餓鬼を知らねぇって言ったが……裏で糸を引く奴が同じって可能性もある」  山崎に命令を下せば、小さく頷いて部屋を出て行く。  今、源さんに屯所内を案内させてるが……斎藤の方が細かなことに気づきそうだ。  いざって時に斬る腕もある。  山崎が出た部屋で、嫌に頭から離れねぇ糞餓鬼の姿にたまらず溜め息が出た。  万が一……春日って女の言うことが本当だとしたら、二条と春日は、全く別のところから来たってことになるか?  刀を持たねぇ平和な世と獣みてぇに目を光らせる物騒な世。  同じように死後に京へ来たって言っていながら……人柄に差がありすぎて、何が真実に繋がるのかも見えてきやしねぇ。  共通する二人の言い分が、繋がりを感じさせるってのに……まるで違う性質。  信じちゃいねぇが……春日の言うように、死んだ場所が後の世だとして。同じように、あの糞餓鬼もそうだったとしよう。  後の世ってことは、今からこの世がどうなるか知ってるっつーことだ。  この先に起きることを二人が知っているとして、糞餓鬼は新撰組を出て、春日は自ら新撰組に来たってのも気になる話だなァ。  だが、納得できそうなこともある。  糞餓鬼……いや、二条は、自分に損になるようなことはしねぇはずだ。  二条が素性を明かさなかったのは……春日と違って、俺に話をしたところで、更に怪しまれるだけと分かってたから。  更にはその先に起こること知ってて言わない選択をするつもりだったからだとすりゃあ、言う必要性がなくなる。  そんな風に考えれば、最後まで何も話さずにいた理由も頷けるかもしれねぇ。  ただ、二条の知っていながら言わない選択が、変化を見ていたら……厄介だ。  この先に起こることを変える為に下手に動かれ、アイツが俺らの敵となったら……これほど手強い奴はいねぇよな……。  
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