浅葱色

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―――――――― 「源さーん、次はどこへ行くんですか?」  井上源三郎こと源さんに屯所内を案内され、風呂やら厠やら何部屋みたいなことを教えて下さるわけですが……正直、頭に入りません。  広いんだよ屯所。  同じような障子や襖だらけの廊下を歩いて、目印なんてのは無いから……どれが開いて良い障子なのかさえ分からない。  なのに何故源さんに次行く場所を聞いたかって?  そりゃぁアレだよ……場繋ぎ。  源さん、まったく喋ってくれないんだよね。  私とは話が合わないとか思ってるのかなぁ? 人見知りなのかなぁ? 「次は、道場です」  丁寧で優しく言われたけど、その声色とは裏腹に、 源さんは綺麗に背筋が伸びていて、顔は厳(イカ)ついっていう……。  その厳つさは、素で怖い。  しかし、土方ほどでは無い。  土方の眉を寄せた怖い顔とは種類が違う。  とはいえ、土方は私の話を信じてくれたし、本当は怖くないのかも。根は優しいのかも。  幽霊信じるタイプかも……と考えてみた。  睨まれたら、そんな考えがぶっ飛んじゃうんだけどね。  進んで行くと、竹刀や木刀のぶつかる音が聞こえてきた。  道場……私も、死ななければ剣道道場へ行ってたんだけどなぁ~。 「中に入らないよう見るだけね」  厳つい顔とはギャップある優しい声。  私と対面し、自己紹介をしてくれた時も 「源さんと呼んでもらって構わないからね」 と馴染むよう言ってくれた。  その優しい声にビビっていた私は少し安堵し、案内を受けているんだけど……どうしよう、全然頭に入ってないよ。 「了解です。ちょっと覗くくらいにしますね」  ニコリと笑って言うと、源さんも厳つい笑顔を見せてくれた。  笑っても厳ついのは、もはや愛嬌にしか思えない。     
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