浅葱色

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   前を歩くスマートボーイは、無言で厠まで連れて行ってくれる。  ……無言で。  厠までついたら、目で合図され、中に入らないわけにもいかし、私は厠に入ったんだけどさ……。 「わっ! くさっ……ぉえっぷ……」  汚ない! 汚いよトイレー!  水洗トイレじゃないし、匂いが半端ないんだけどー!  やばいよー、オエーしちゃいそうだよー。  オエーが喉を通過しちゃいそうだよー。  やばいやばいやばい……  無理無理無理無理……  これから先、ずっとこの厠を使わなきゃダメってこと?  そういうことに、なるよね?  異臭漂う厠を使ってかなきゃ駄目なんだよねーっ!?  うっ、なっ……泣いても良いですか? 「……お待たせしました」 「……ああ」  さっきよりもテンションが下がった私。  厠に用は無かったはずなのに、これからを考えて一歩を踏み出してみたけど……ほんとに、臭いと厠の現実が辛くて。  厠デビューひゃっほい! なんて言えないよっ!  そんなことを考えながらトボトボと歩く私……そして私の前を歩くスマートボーイ。  このスマートボーイも、あの異臭漂う厠で用を済ますんだと思うと……すごいなって思う。  スマートボーイだけじゃないけど。私からしたら、トイレ一つ不便で汚ないって思うんだ。  でも、この時代の人は……きっとそんなこと思わない。  ちょっと尊敬したよ、まじで。  あんな汚くても、不便でも……生活が成り立つんだもん。  とはいえ、これから私はそれに慣れなきゃならないんだよね。厠……ほんとやだなー。  
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