浅葱色

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  「平助か……」  斉藤の呟いた言葉に、今から現れるだろう人の名前を知り、私の胸が騒ぐ。  平助、といいますと……藤堂平助なんじゃっ!?  もしやの藤堂平助ならば、私の知る存在だ!  次々に会える新撰組の人に、なんだか嬉しさが込み上げるぅ!  しかも! 話し声が聞こえてくるの。  ということは、もう一人誰かが居るってことだよね……?  ま、さ、か。  私の読んでた小説では、原田と永倉が藤堂と仲良しの三人組みたいに書かれてあって……つまりはその人たちに会えるということなんじゃないっ!?  現れるだろう角をジッと見つめ、私は高鳴る胸に手を当てた。  心拍はバクバクと期待の分だけ速まっている。 「……だからね、畳がボロボロになるから掻いちゃ駄目だって、パチ。分かる? ちゃんと聞いてるのかなァ~僕の給金が減っちゃうんだ……って、アレ?一君だ」 「え……あれ?」  現れた人を見て、私の口からもアレ? と出た。  だって、角から現れた人は一人だから。  腕に猫を抱えていて……。  つまり……遠くから聞こえた話し声は猫に話しかけていた声ってことになる、よね?  誰かが一緒ってわけじゃなくて、単に猫に話しかけていただけであって……期待損。  なんだって猫にそんな話しかけるの? 「……平助。新しい女中だ」 「あっ、さっきの騒がしい子じゃん? 女中になれたんだ~? 土方さんにしては珍しいね、こんなのを女中にするなんてさ」  ぐはぁっ……!  すごい失礼なんですけど、この人。 「理由ありだそうだ」 「ふぅん……まっ、どうでも良いけど。 あっ、僕、藤堂平助です。それからこちらはパチ君だよ! あとね、タイラって女の子もいるから、皆まとめて宜しくねっ!」  ニカッと笑う藤堂平助。  会えて嬉しいのに、なんだか複雑だよ!  猫の紹介は必要なの?  ていうか、無理矢理、猫の手を上げさせなくて良いんだけど?  まとめて宜しくされちゃった……。   
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