浅葱色

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  「男装は趣味じゃないです、はい」  泣きたいけど、そう簡単に目から滴がおつるはずもなく……男装趣味というイメージだけは阻止しよう、と無理矢理に気持ちを切り替える。  切り替えなきゃ、イメージ回復も出来そうにないしね。 「男装趣味じゃないんだ? そう言われても説得力ないけどね~。 だけど、まあ女中さんにも事情があるんだろうし、聞かないでおこうかな」  うん。もう聞かないで。何故こんな格好かなんて聞かれても、答えが思い付かないから。  未来の話はできないし、剣術はできないって言っただけに、稽古着を着る理由は無くなるし……。  聞かないでおくれ。 「事情……か」  呟きながらも、斉藤はそれ以上何か言うような素振りを見せない。  だから、きっと斉藤も聞かずに居てくれるんだと思う。  すると、藤堂が苦笑混じりに斎藤へ声を投げた。 「なんかさ、螢ちゃんも男装してたし同じような子かと思ったけど……全然違うね。一君も思わない?」  んん? 螢ちゃん? 男装してた螢ちゃん?  藤堂の言葉に首を傾げる私の横で、斉藤は頷いている。  男装ってことは……女ってこと。  私の知らない人だ。新撰組に女が居たなんて……小説では、タイムスリップって形で見ることはあったけど。それは、創作の登場人物だったし。  螢なんて名前、聞いたことない。 「螢って誰なんですか?」  男装趣味の螢って人に興味あるわけじゃないけど、まだ屯所で女の人を見かけて無いだけに、同性が居るなら知っておきたい。  そんな軽い気持ちで私は口にした。  ここはイケメンが多いだけに、友達になってガールズトークとかしたいじゃん。絶対に楽しい! と思ったけど……。  私が口にした瞬間、二人の顔が曇り、聞いちゃ駄目だったんじゃないかって思った。     
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