314人が本棚に入れています
本棚に追加
隊士に声をかけながら、女の居る場まで行けば、キンキン声の正体である女がいた。
垂れ目がちの大きな瞳。その目を俺に向けて何かを呟いたが……小さすぎて何言ってんのか分からねぇ。
「副長! この女……」
「あぁ……部屋に連れてけ」
俺は、縄で縛られている女をまじまじと見ながら返す。
この騒ぎを見ている隊士とあまり変わらぬ稽古着。
女は着ることがないというのに、この女はそれを着ていて……更には、上等そうな物ときた。
そんな格好をした女を見たのは、初めてではない。
その姿を見て、脳裏に直ぐ浮かんできたアノ糞餓鬼の姿。
アイツも……男の格好をしてやがったし、その着物は上等そうな物だった。
女をひとしきり見た後、踵を返して部屋に戻る。
「テメェら、隊務に戻りやがれっ!」
まだ落ち着かず女を見ている隊士に声を張って言えば、それぞれが俺の声に恐れながら足を踏み出す。
それを視界の端に見ながら、胸に渦巻くのは嫌悪のような気持ち。
勝手に口から息が漏れた。
あの餓鬼を、頭に過(ヨギ)らせるだけで……俺の気分は害される。
あの鋭い眼光も、無駄に勇ましい立ち振舞いにしても、何事にも屈しない凛々しい清廉(セイレン)な姿だって……。
俺らには到底真似できねぇくれぇの強い存在感が、未だ忌々しく思えてならねぇ。
狼と言われる俺らより狼らしい糞餓鬼。
たかが上等そうな着物という共通点だけだが、嫌な予感というのもあって、あの女が、二匹目じゃなきゃ良いが……と胸の内で呟いた。
最初のコメントを投稿しよう!