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「おっ、すまないすまない。斬るつもりは毛頭ないよ。
怖がらせてしまったかな?」
そう言って、恰幅の良い男は微笑んでくれた。
その柔らかい言い方に、少し安心する。
当然、斬られる理由なんてない……はず。だけど、ここに入って来たときに縄で縛られたくらいだからね。怖いものは怖い。
「近藤さん。アンタが気を遣う相手じゃねぇんだから、謝る必要はねぇよ」
ぶっきらぼうに言う土方に、恰幅の良い男は苦笑する。
そして私は、コクコクと頷いた。
真ん中に座ってるんだもん、当然、この人が局長だ。
「局長の近藤勇さん……ですよね」
恰幅の良い男に向けて言えば、頷いて返してくれる。
「局長の近藤勇だ。君は……後世から来たと聞いたが、名は?」
「あれ……え? えと、春日仁菜です」
近藤の発言に慌てて土方を見ると、土方は私を睨むだけで何も言わない。
未来から来たことは誰にも言うなって私に言ったくせに、土方は近藤に言ったらしい。
まあ、局長だから……言っててもおかしくは無いけど。
「土方君から、聞いたんだよ。初めまして、山南敬助です」
私の心を読むように言う男が、猫を撫でながら私を見ている。
その視線に合うよう目を遣れば、ニコニコと目を細めていた。
ゆるキャラ2号は副長の山南。仏の山南だ。
鬼の土方、仏の山南。その二人の副長は、よく対比して小説に書かれてたことが多い。
「宜しくお願いします。私、この時代のずっと後の時代から来たんです。そこでは、新撰組が有名で……女中に採用してもらえて嬉しいです」
私が素直に喜びを伝えれば、近藤が口元に笑みを作った。
「有名……か。それは喜ばしいことだ。後世に名を残すとは、な、ハハハっ」
「はい、とても有名ですよ」
笑顔に釣られて、私も笑う。
笑ってるのは、私と近藤くらいで……何故か土方には睨まれてる。
なんで?
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