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「本当にそれだけの理由か?
新撰組に用がある、それか、京でやらなきゃならねぇことでもあるんじゃねぇのかよ?」
ずっと黙ってた土方が、私を見ながら乱暴に言葉を放った。
私は、新撰組に用も無ければ、京に用があるわけでも無い。
「そういうわけじゃないんです。私も、知らない間に京に居たから……知ってるものを頼るしかなくて」
私は近藤に向かって言っていた。
何かを疑われている気がして、しっかりと視線を近藤に向けていた。
責められてる気がするんだよ、土方に。怖いな……。
「ここは血生臭いところだから、若い君のような娘が住み込みで働くには良い環境とは思えなくてね。
君は、そんなことも知っているはずたが……?
男所帯であるし、わざわざ新撰組を選んだことに疑問を感じてね」
苦笑する近藤の言わんとすることが伝わってきた。
刀が三者三様に置かれている意味を、私は直ぐに理解したじゃないか。
ここは、人を斬れる人が住まう場所。
私……自分からそこに身を置いて欲しいって言ってたんだ。
今更、気づいちゃった……。
気づいてしまえば、少しだけ怖くなってきて……でも、目の前の近藤は柔らかく微笑んでいるから、それが現実ということが今一つ実感として湧かない。
「……他の理由は、本当にないんです。
ここしか、私には知ってる場所が無かったんです」
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