二匹目

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   女よりも先に部屋に戻る。  戻る途中に、後ろから「痛い!」だなんだ言ってやがったが、俺は振り返ることなく部屋へ足を進めた。  開いた障子を開けたままにして自分のあるべき場所に座って息を吐くと、妙な胸の嫌悪感は増す。  嫌な予感ってもんは、当たりやすい。 「失礼します」  捕縛した隊士が部屋に女を連れて入って来た。  俺の正面に座した女は、大きな目を細めて隊士を睨んでやがる。  だが、その睨みには迫力ってのがねぇ。  あの糞餓鬼とは、えらい差だ。  それに……この女には隙ってもんがありすぎる。  警戒というものを知らねぇような、そんな緩い空気が醸されていた。  斬ろうと思えば、いつでも斬れるだろう。  本当にただの女中志願者か?  だとしたら、その格好は明らかに不審でしかない。  志願するに当たって、身なりを整えてくんのが普通であるし、そんな男装まがいの格好で来るなんてのは、俺らを馬鹿にしてんのか見下してんのか……志願する装いではない。 「お前ら、戻っていいぞ」  女を連れてきた隊士に声をかけ、下がらせた。  隊士が障子を閉めきる瞬間まで、睨み続ける女。  そこには、殺気なんてものはなく、無理矢理に目付きを悪くしてるだけに見えんのは俺だけだろうか……?     
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