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いそいそと向かう先は道場。
きっと沖田は道場にいるはずだっ!
てか道場に居てっ!!
念力を飛ばすつもりで願い、足を動かし、角を曲がろうとしたその時……
「わっ! ぷぅふぇあっ!」
誰かにぶつかったっ!
タイミング良すぎるくらいに角から人が出てきて、顔をぶつけたおかげで鼻が痛い。
更には不細工な声が出ちゃったよっ!
「イタタタタタ……」
強打した鼻が痛いせいで、少し涙が浮かんだよバカヤロー!!
でも、ちょっと良い匂いがした……気がする。
「わりぃ、平気か?」
声をかけられ、鼻を擦りながらぶつかった相手を見上げた私は、数回瞬きを繰り返した。
「やっべ……超イケメン再来……」
今日一日で、もう何度も使ったイケメンという言葉。
他の言葉が思い付かないから、やっぱりイケメンと言うしかない。
「大丈夫そうだな」
私の顔を見ながら一人コクリと頷いて横を通り過ぎていくイケメンは、着物を買いに行く最中に浅葱色の羽織を着ていたアノ人だ。
名前……は分からないんだけど、やはりイケメンと再確認。
去ってく背を見ながら、私は少しゆるんだ自分の頬に手を添えた。
「男前すぐる…………ってちがう! 流されてんじゃないよ、私!
沖田さん、今のは浮気じゃないですから! トキメキましたけど、今のは浮気心じゃないですから!」
沖田を探してたのに色気にあてられて思わずうっとりしちゃってました。
今のは浮気じゃない。心の浮気なんかじゃない。
私は沖田がタイプなんだ!
頭を左右へ振って道場へ向かう私は、こんな独り言を誰かに聞かれて、しかも見られてるなんて思ってなかった。
端から見たら、完全に変な女だってのに。
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