猫に負けた日

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  ーーーーーーーーーーーーーーーー ーーーーーーーーーーーー 「……で?他には何もねぇのかよ、林」  林信太郎。彼の名前を呼ぶとき、いつも土方は嫌悪感を抱くように呼ぶ。 「テメェ……その苛っとする面はどうにかなんねぇのか?」  苛っとする顔。土方が嫌悪感を抱くような言い方をするのは、彼の顔がニヤニヤと笑みを浮かべるような顔だからである。 「元来この顔なんですよねぇ~。どうにもならねぇです」  元々目が細いことに加え、垂れ目であるため、目だけでも既に笑っているように見える林。  当然、土方もそれを分かっているのだが……仁菜について、欲しい情報とは違う不気味な言動しか得れなかったために林に八つ当たっているようなものだった。 「こんなこと、あまり副長には言いたくねぇんですけど……。 春日は、ちょっとオツムの出来が良くねぇだけのようが気がするんでさァ。 独り言が兎に角多いですからァ……間者には向いてないです」  話していても笑みを浮かべているようにしか見えない林に、土方はわずかばかり項垂れそうになった。 「アイツが頭悪ぃのは見りゃ分かんだろ。常に口が半開きの奴に、まともな奴はいねぇ。 それでも、二条と同じことを言ってる以上は、何か分かるまでしっかり見とけ」  見れば分かる。話せばもっと理解に容易い。  土方は、そんなことを聞きたいわけではない。  欲しい報告は、ソレではなかった。  投げやりに吐かれた言葉に、林は頷いて返す。 「あっ……言い忘れてたんですけどぉ。 春日、意外に隊士のウケが良いみたいなんでさァ。 阿呆そうなところが可愛いとか言ってる奴がチラホラと……」 「ハァ……物好きな奴等め……」  額を片手で覆い、土方は落胆したように肩を落とす。  今日だけで、既に浮かれているであろう隊士。  元より、女人禁制なのだから……住み込みは流石に不味かったようにも思える。  けれど、目を離すことが出来ない理由もちゃんとあるのだ。それ故に、この判断は、仕方なかったと自分に言い聞かせた。 「……チッ。面倒くせぇことばっかじゃねぇか」  舌打ちと共に、曲がりかけた背筋が伸びる。その土方の行動が合図かのように、林はニヤニヤしながら会釈をして部屋を出た。  
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