二匹目

7/21
前へ
/86ページ
次へ
  「オイ、名前を言え」  隊士が出てった後に声をかけたら、女は俯いた顔を上げた。 「春日仁菜です……っていうか! 縄で縛るっておかしくないですかね!? 私、女中の面接をしてくれって頼んだだけなのに! なんでこんな扱いを受けなきゃならないのよっ!」  顔をしかめながら言った春日って女は、でけぇ声で愚痴を溢しだす。 「煩ぇ。テメェ誰に向かって口きいてんだ?」  俺が、故意に睨んで言うと女は一瞬目を見開いて固まり、すぐに肩を竦める。  俺の予想とは、違う反応。  同じような装いで現れたあの糞餓鬼は、怯むどころか目すら逸らさずに俺を見てきた。  だから、同じような反応をすると思ったが……。  コイツは、普通にビビってやがる。  嫌な予感ほど当たると思ったが……珍しく外したかもしれねぇ。  だが……。  疑心ってのは簡単には拭うもんじゃない。  こういう格好で現れた女への疑心なんてのは、より一層拭えるもんじゃない。  この春日って女の気配は緩(ユル)すぎて、隙がありすぎることが逆に怪しい気もする。  疑おうと思えば、いくらでも疑える。  訳ありや、間者、企てを持ってるってのは……考えられることだ。     
/86ページ

最初のコメントを投稿しよう!

314人が本棚に入れています
本棚に追加