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「オイ、名前を言え」
隊士が出てった後に声をかけたら、女は俯いた顔を上げた。
「春日仁菜です……っていうか! 縄で縛るっておかしくないですかね!?
私、女中の面接をしてくれって頼んだだけなのに! なんでこんな扱いを受けなきゃならないのよっ!」
顔をしかめながら言った春日って女は、でけぇ声で愚痴を溢しだす。
「煩ぇ。テメェ誰に向かって口きいてんだ?」
俺が、故意に睨んで言うと女は一瞬目を見開いて固まり、すぐに肩を竦める。
俺の予想とは、違う反応。
同じような装いで現れたあの糞餓鬼は、怯むどころか目すら逸らさずに俺を見てきた。
だから、同じような反応をすると思ったが……。
コイツは、普通にビビってやがる。
嫌な予感ほど当たると思ったが……珍しく外したかもしれねぇ。
だが……。
疑心ってのは簡単には拭うもんじゃない。
こういう格好で現れた女への疑心なんてのは、より一層拭えるもんじゃない。
この春日って女の気配は緩(ユル)すぎて、隙がありすぎることが逆に怪しい気もする。
疑おうと思えば、いくらでも疑える。
訳ありや、間者、企てを持ってるってのは……考えられることだ。
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