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斬られたいのか、だって?
「斬られたくないです」
当然、斬られて死にたいなんて思わないよ!
だから、ハッキリと答えた。
女中の仕事後の説教で疲れている私は、土方の死んだ魚のような目を見ても怖いと思う気力さえ無い。
それに気づいているらしい土方は、もう睨んできたりはしないけど……、相変わらず声は大きくて低くて、不機嫌さが漂ってきている。
「もう良いじゃないですか、反省してるんだし、寝させてください」
「それはテメェが言う言葉じゃねぇだろうが。
なんで俺が宥められなきゃならねぇんだ、あぁん?」
イキッた男子みたいな言い方に、笑いが込み上げる……が、堪える。
疲れてるから、今は脳内変換がおかしいんだろう。
疲れてなかったら、今頃土方に対してビビりまくっていたに違いない。
「もう沖田さんの誘惑に負けたりしません、すみませんでしたー」
「総司が誘惑したんじゃねぇだろうが。テメェが脱がせたんだろ。
人のせいにしてんじゃねぇよ」
まだ言うか土方コノヤロー。
説教はうんざりだ!
「すみませーん。私が全て悪ぅござんした。
明日からは心を入れ替え、修行僧の如く欲求と戦い悟りをひらきます」
我ながら、難しい言葉をよく言えたと褒めてやりたい。
修行僧なんて言葉、普通の高校三年生には言えないよ? 思い付かないよ?
心で自分を褒め称え、土方が解放してくれるよう願った。
想いは届く!絶対に!
「……普通の女は、欲求なんて言葉を言わねぇ。
男に色をかけてぇなら、そこから直すんだな」
あー、届いてない。まだ説教が続きそうだよコイツ。
誰か、奴の口を塞いでやってくれ。
これじゃあ、担任の先生より、生活指導の先生より質が悪い。
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