猫に負けた日

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   急に部屋の外から呼び掛けられて、羽織っていた着物で前を隠す。  大きくない胸でも、見られたいとは思わないし……。 「あまり時間がねぇんで、入りますよ」 「は、はいっ」  僅かに上擦った声。  その返事と共に、男の人が入ってくる。  細身。そして、すっごい目が細い……。  第一に思ったのはそんなことで、入ってきた男の人は笑顔で私を見ていた。 「着物の着付けに困ってんじゃねぇかと思いやしてね」 「っっ!?」 「まあ、春日さんについては副長から聞いてるんでェ、ちぃとばかし身を緩めてもらえねぇですかィ」  なん……だとっ!?  この目が細い男の人は、私がどこから来たのか知ってるの?  しかも、着物の着付けに困ってるかもしれないと、来てくれたっていうの? 「めっちゃ、困ってました……。着れないんですぅ!」  助かるぅ!  ピンチに招かれた神様だよお! 「着付けは、自分がしますんで。春日さんは動かねぇでください」  目が極端に細くて、開いているのかも微妙な細身の人。  笑顔で私に近付いてきて、 「きゃっ!」  バッと閉じていた着物を開かれたぁぁあああ!?  ちょ、ちょ、ちょっと!? 「な、な、なにするんですかっ!?」  中は襦袢なのよ!  柔肌! 乙女の柔肌が見えちゃうじゃん!?  開かれた着物を手で閉じようとすれば、私の腕をギリッと強く掴んできた、その男。  私を離さんとするその力に、警戒心ってものが沸き上がってきた。  まずいまずい……これは、まじで乙女のピンチじゃね? 「襦袢から出来てねェんで、直すだけ。黙っててもらえねェですかね?」 「っ、んなこと言って、私を襲うつもりですかっ!? やっ、は、離してくださいっ!」  ピンチっ!  握られた手は、もがけど離されることはなくて。  ありったけの力で抜こうと試みても、むりだー!  着付けをするのに、そんな強く握る必要ないじゃん!  やっぱりこれは……ピンチなんじゃね!?  
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