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「どっから来た?」
俺が声を発しただけで、肩をビクッと揺らす春日。
「……どこって……」
口ごもりながら頭で考えてるらしい女は、こんな初歩的な質問で顔色を変えやがった。
「考えるようなことじゃねぇだろ?」
自分の出を考えるなんざ、まあ無い。嘘を吐きますと言ってるようなもんだし……明らかに動揺してやがる。
そんな態度を出されちゃ、こっちの疑いが更に深まるんたが……こうも分かりやすい奴を間者として送る奴がいんのか? とも思う。
それほど、目に見えて怪しい。
「考えてるんじゃなくて……悩んでるんですよぉ」
あははと渇いた笑いを溢す女は、顔を僅かに俯けて目を血走らせている。
「テメェ、尋問の意味分かってんのか?
嘘を吐くような真似してみやがれ……俺が叩っ斬ってやっから」
「叩き斬っ……!? すすすすすみませんっ! 嘘とかじゃなくて!
えええええええ……ええと……何というか、レアなことすぎてですね! かなり困っているというか!
何ですかね、何と言えば良いですかね!? 後悔先にたたずって言うんですかね?
好奇心だけで来たから、何にも考えて無かったんですよ!」
ビビった女は、目を更に血走らせて、早口で喋りだした。
俺が少し声を張って脅した程度で恐れるようじゃ、間者ってのにコイツは向いてない。
だが、コイツは俺には分からない言葉を使いやがった。
れあってのは何だ?
方言か?
「ちょ……ちょっとタイム! タイム要請します!」
「……タイムってのは何だ? 方言で喋られちゃ分からねぇだろうが」
「……!? えっ……と方言ではな……いや! 方言っす!
すみません! タイムってのは時間なんです! 頭の整理をする時間を下さいって言ったんです」
女の必死の形相に、俺は口を閉じた。
長く時間をやるつもりはねぇ。
この短い瞬間に、嘘を考えたところで、この女が吐く嘘を俺は見破る自信がある。
何故なら、珍妙なこの女は、無駄に表情が素直だからだ。
目も表情も、口以上に語っている。
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