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「何か用ですか?」
僅かな苛立ちから、少しだけ投げやりに言うと、山崎さんは僕の肩に手を置いてハッと笑った。
「女中の採用に納得してへんみたいやなァ」
「ええ、納得してません。
住み込みで女中を雇う土方さんは、何を考えてるんでしょうね?
男所帯の中に、女を住まわすだけでも土方さんらしくないですし、あの卑しい目をした女を選ぶ見る目の無さには、落胆しているくらいです」
「まぁまぁ、んなこと言うなや~。少ししたら、ちゃんと説明されるから、今は我慢やで」
ポンポンと僕の肩を叩きながら言った山崎さんは、自分の口からは言わないって言ってるんだろう。だから、聞く意味がないってことを遠回しに言っていて。
胸に沸く疑問は、更に膨れ上がった。
「そうですか。用はそれだけですか?」
「ん、そうやで。螢っ子ん時は快く住まわした総ちゃんが、こうも分かりやすく拒絶しよるから宥(ナダ)めとこうと思ってな」
山崎さんは、僕の顔を伺いながら言う。
彼女を嫌ってる山崎さんが呼ぶ、 螢っ子 という呼び名は、味気なく聞こえるから怖いところだ。
愛称のはずなのに、そこに愛は感じられない。
「宥めるなら、何故女中を林さんが監視しているのかくらい、教えてほしいものですねぇ」
彼女の話を遠ざけ、次は僕が山崎さんの表情を伺う。
女中の待遇は、どことなく彼女にしていたことと似ている。
それどころか、着物を買いに付き合わされるところまで一緒。
螢さんとの何かがあるんでしょ? と遠回しに言ったつもりだったけど……、さすが監察と言うべきか、表情一つ変えることはない。
「それも、直ぐに分かるんとちゃうか? 飯後に招集がかかるやろうから、直接土方さんから聞き」
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