猫に負けた日

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   山崎さんは、またポンと肩を叩いてきた。  そんなことをされると、益々苛立つって分かってるのかなァ? 「分かりました。山崎さんが言うように、直接聞きます」  色の無い声で言い、僕は山崎さんへ軽く会釈をしながら場を離れた。  山崎さんが言ってくれないのだから、きっと土方さんも多くを教えてはくれない。  直接聞いて教えてくれるようなことなら、今山崎さんが言っても問題無いはずで……。 「こういう苛立ちって、どう発散したら良いんだろ……。 永倉さんに手合わせしてもらおっかな~」  僕の剣術の腕を向上させることができる相手なんて多くはいない。  苛立ちや悩みを抱えた時は、全力で打ち込む稽古をするに限るのだけど……打ち込み甲斐のある人って永倉さんや一君くらいで、相手を選べないんだよね。  短い間だったけれど……。  やっぱりあの子が居てくれた時は楽しかった。  僕よりも早い一閃に一撃は、見えていても体がついていかなくて、悔しい思いをしたなァ……。  同時に、そう思えるのが楽しかったというのに。  前触れもなく簡単に屯所から出て行ってしまった。  足は自然と道場へ向かっていた。  目に焼き付けたあの子の剣術は、見よう見まねでやってみてもどこか違う。  足の動きなのか?  それとも……体の傾け方?  木刀を手にとり、空を斬ってみるが何かが違って、ぎこちない動きになっているのが自分で分かる。  そして、こうやって彼女の剣術の真似事を出来るのは……誰も見ていない場だから、追求できる貴重な時間でもある。  いつもの僕らしい剣術とは違う動きを皆に見られたら……恥ずかしいんだよね。  ……なんて思っていると、道場に向かって来る足音が聞こえた。  
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