猫に負けた日

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  「あの女中、一体何者ですか?」  土方さんが避けたいことを、正面から切り出した。  僕らしくない程の声色で言ってみたものの、土方さんの表情は動揺一つ見えない。 「何者……と言われちゃ答えづらいが、アレは利用価値があるかもしれねぇ産物だ」  もっと渋るのかと思った僕の予想を、土方さんは軽々飛び越える。  僕を掌握する土方さんだからこそ、予めどう言うか決めていたのかもしれないな。 「後の幹部招集ん時にも言うが……、せっかちな総司のために今言ってやるよ。 あの女中は、重要なことを知ってやがる。新撰組についても……、恐らく長州の奴らについても。 大袈裟に言えば、それだけじゃねぇ世を含んだものを知っている。 今は……、それらがホンモノであるかを調べさせてるとこだ」 「……なんですかソレ」  土方さんの言った事柄の大きさに、正直頭がついていかない。  世を含んだ何を知っているというのか……?  あの女中からは、まるで考えることが出来ない事の大きさに、何故か頭が真っ白になった。 「……分かってねぇみてぇだな。まあ、今は調べさせてる段階だ。 俺は何でもかんでも鵜呑みにして、幹部にそれらを言うような馬鹿じゃねぇ。詳しく言えねぇのは勘弁してくれや」  フッと鼻で笑いを溢しながら言った土方さん。  僕に噛みつく余地を与えない言い方をし、更に僕に向かって投げやりに言った。 「それとな……、二条 螢を捕縛する命を下す。 分かってっと思うが、アイツみてぇな強者が野放しになってるのは京を危険に晒してるようなモンだ」 「……えっ、何でまた急に螢さんなんですか……?」  真っ白になった頭は、あの子の名を聞いて再稼働しだす。  隊士の間でも、既に忘れられかけていた存在だというのに……再び命が下るのは変だ。  今更、なんでまたあの子なんだ?  既に……二ヵ月以上は経ってるというのに。  
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