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俺は、2人が部屋をでて、バタンとドアが閉まるのを見つめていた。
「あいつ、ホント腹立つな…」
夏野悠哉(ナツノユウヤ 36歳)叔父が社長から会長へ退いてから、若くして会社の社長を任される。もちろん実績は右肩上がりですばらしい。
あいつはいつも俺を見ていない。
初めて俺があいつを見たのは何年も前だった。
俺が会社を任されてすぐのころ、取引先の社長に食事でも一緒にと誘われ、そこで社長の知り合いの大学教授と出会った。
その大学教授に講演に出て少し話しをしてくれ、ということになり、やむを得ず承諾した。
大学ではかなりの騒ぎようだった。
若いうえに社長。しかも顔がいい。
女子大生がキャーキャー騒ぐのも無理はなかった。
ただ一人の女を除いては…。
ステージ台からは一人一人顔がはっきり見える。
皆、俺を見てしっかり話を聞いている…と思ったが、たった一人、話を聞いていないのか、俺をまったく見ていなかった。
別にどうでもよかった。そのときは。
だがあいつは、次も俺を見ようとしなかった。
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