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異形の体を縛るのは圧倒的な恐怖。本能的に畏怖を煽るその様相に反して、恐れていたのは少年ではなく異形。
「マ、待ッテクレ!」
異形は決しに片手を動かして少年に向ける。
「あん?」
「モウ『ニンゲン』コロサナイ! タスケテ!」
覚束ない言葉を使う異形。もしこの言葉が人間の使うものとまったく同じであるならば、この異形は少年に対して命乞いをしているらしい。
「自分は散々人を殺して町を壊しておいて……自分は死にたくねえってか?」
少年はその容姿に反してやや荒っぽい口調で吐き捨てる。冷めた目で膝を折った異形を睥睨し、やがて興味が失せたように背中を向ける。
「ならとっとと失せろ」
あまりにも無防備。あまりにも幼い。心の甘さに、異形は口を歪めた。
「死ネェェエエエエ!!」
待ったをかけた右手の五指をそのまま少年の背中に突き立てる。柔い肌を貫き、鋭い五指は少年の胸から飛び出して、その手に心の臓を抉り出す――――筈だった。
異形の五指は何も掴んでいなかった。
「ヘァ?」
「俺を騙したいんだったらなぁ」
声は異形の背後からだった。
「次はもっと人間の言葉を覚えて来い」
『次』など少年は与えるつもりすらなかったが。
―――――――†
東と西に大陸を二分する大河。東大陸最西端に位置する街『リザーブ』。
リザーブは東大陸に属するといっても、ほぼ両大陸の真ん中といっていい位置にある。そのおかげと言っていいのか、往来する人の数と流れ込む品々は東西大陸を合わせても最大級だ。
貿易都市リザーブ。そう呼ぶ者も少なくない。
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