白銀の少年

2/19
464人が本棚に入れています
本棚に追加
/134ページ
大陸最南端。 漁業が盛んで、多くの人間が毎日賑わう港町は今や死の町と成り果てていた。家屋は原型を留めない程に破壊され、地面は冗談のようにひっくり返されていた。 ただ唯一、町のシンボルにもなっていた古城だけは形を残し建っていた。 古城の最上部。昔は謁見の間としてでも使われていたのか、それなりの広さをもっている。 「お前で最後だな」 人の声。幼さの残る少し甲高な、それでも声の質から決して少女ではなく少年の声。事実、声の主は少年だった。 少年と相対するモノ。一言で述べて異形。 毛も何もない全身を覆う灰色の皮膚。硬質化して鋭い五指。背中から生えるコウモリのような翼。 見る者に根源的恐怖を抱かせる様相の存在。そのモノこそ、この町の建物を破壊し、道を破壊し、人を破壊した。仲間と共にそれを行った。だがしかし、“生き残っているのは自分だけだった”。 異形は考える。『コレハ、ナンダ?』と。 異形の目の前には先程声を発した少年。一言で言って彼も異形。但し、自分とは違い少年は人の形をしてなお異形なのだ。 鼻や口、指の一本に致までまるで神が悪戯に生んだ至高の芸術と呼べる程、奇跡的な少年の容姿。何よりも特徴的なのは、迷いや不安といった淀みなど一切見えない銀色の瞳。それと同色の、輝くような白銀の髪。 種族の違う異形にとって、『ニンゲン』はどれも同じに見えるが彼だけは別だった。相容れない異形が見とれる程に美しかった。 ――たった今、自分以外の仲間を葬った少年に対して。 「なーに黙りこくってんだよ」 少年の言葉が異形に正気を取り戻させる。眼前の少年は『ニンゲン』で、今自分は少年に殺されかけているのだと再認識。 再認識して、動きが止まった。 「今まで好き勝手やってきたんだ。その報いを受けんのは当然だろ?」 大理石のように白い肌をした少年の細く長い指が掴むのは、幅広く長大、無骨な大剣。およそ少年の体躯で扱える筈のないそれを、彼は軽々片手で持ち上げて肩に担ぐ。
/134ページ

最初のコメントを投稿しよう!