第一幕  1593年

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凜さんはただ何も言わず廊下を歩いていく。 「あの・・・」 その状態が気まずくなり、玲人は勇気を出して声を出してみた。 「親分さんってどんな人なんですか?」 話題がこれ以外見つからない。 「親分かい?親分は、とてもいい人だよ。幼い頃、両親をなくしたうちを拾って育ててくれたからね。それに、強いから頼りにしてるんだ。」 「そうですか。でも、何故両親を亡くしたんですか?何かの病気で?」 「それは・・・」 凜さんの声は、急に小さくなった。歩くスピードもさっきより遅い。 もしかしたら、聞いてはならないことを聞いてしまったみたいだ。凜さんには両親を亡くした辛い記憶があり、心に深い傷を負ってしまったのかもしれない。 「殺されたんだよ、あいつに。忘れもしない、あれは・・・12年前、うちは7歳だった。両親と一緒に江戸の町を見て周り、気づいたときには既に日が暮れかかっていた・・・」 家に向かって、父上と母上、二人と手を繋ぎながら家路を急いでいると、前から腰に刀を挿した一人の男性が歩いてきた。 その男性を見たときの両親の顔は段々と青ざめてゆく。なぜならその男は、江戸の町で庶民から恐れられている人斬り、゙桃池厳輔(モモチゲンスケ)″だったからだ。
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