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東城家のお抱え運転手、長谷川香弥が慌てた様子で扉を開いたのは、春のうららかな午後の出来事だった。
「皆さん、聞いて下さい。奥様がお帰りになりました!」
扉を閉めるのもそこそこに言い放ったセリフは、いつもの奏之介の部屋で行われる団欒の雰囲気を、ガラリと変えた。
「どこに!?」
「痛ッ!!」
扉を背にして右側にある白い革のソファの背もたれから、満里奈が身を乗り出す。
どうやら、正面にある大型のプラズマテレビを見ながら渉とじゃれあっていたようだ。
下敷きにされた渉は、むくっと起き上がり、顔に押し付けられたクッションから、まるでライオンのたてがみのようなミルクティー色の髪を覗かせた。
「ここ、です」
香弥は満里奈を一瞥し、部屋の中央まで来ると呼吸を整える。
そして、窓の光が射し込む一人掛けの椅子に座るマコトを見た。
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