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バタンッ━━━━信太が運転していたランドクルーザーから降りると、百合江はさっそく訊いた。
「ここは?」
「『日丸二党連合』の拠点さ。元は旅館だったんだけど、今は改装されて連中が使ってる。知ってる奴は殆どいないけどね。」
そこを知っているのは仕事柄、といったところか。
しかし、そんな所に来て何が得られるというのか━━━━
「連中と情報交換でもして探すのか?」
「まあ見てなって。」
そう言って信太が向かった古い建物。
一見すると廃墟とさして変わらない様に植物に覆われたその木造建築は、だが確かに中から人の気配がしていた。
おもむろに信太が建物の引き戸、元は正面玄関だった出あろう戸を叩くと、少しだけ開いて声がした。
「何の用だ。」
「ちょっと人を探してるんだ。金髪で華奢なロシア人なんだけど、来てないかい?」
「知らん。とっとと去れ。」
「つれないなぁ。別にタダでなんて言ってないだろ?それに俺はただの『情報屋(トンビ)』だ。あんたらに喧嘩を売りに来たわけじゃない。お互いの為にもなるよ?」
…ピシャッ。
戸が閉められ、信太は首をかしげる。
「おっかしいなあ。入れてくれるって思ったのに。」
「そりゃ警戒されるわ。ここはいちおう『秘密の拠点』なんだろ?」
とはいっても、いきなり現れて取引を持ちかけるというスタイルは『トンビ』としては珍しくはない。
これでも反『アークファミリー』の連中には顔が利く自信がある信太は、怒られるの覚悟で引き戸に手をかける。
ガラガラッ━━━━引き戸は難なく開き、そのままズカズカと遠慮なく中へ入っていった。
「お、おい、ちょっと。」
「良いんだよ。別にやましいことなんかないし。」
そう言って信太は話し声がする方に歩いていき、すると前方の引き戸が一箇所開き、先ほどの男ともう1人の男が視界に入った。
「あれ、お前は確か…」
「あ、あの時の狙撃手(スナイパー)。確か名前はダニエル、だっけ?」
対面したのは、あのフロートシティ襲撃事件の折に防波堤で狙撃を行った日系人のダニエルだ。
百合江もそれを認識したらしく、声を漏らした。
「あ、アンタか。他の幹部は留守なの━━━━」
━━━━「おや、聞き覚えのある声ですね。このセクシーな声は…あなたですね?船団長?」
ピクッと百合江の眉が動き、その声の主を確かめようと部屋の中を覗き込んだ。
「てめえ…シャミル…!」
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