41人が本棚に入れています
本棚に追加
*
カジノには縁がなかった。
そんなところでちょっとだけでも遊ぶ金がなかった貧民層の自分が、そんなところでギャンブルなんてのはてんで想像もできなかった。単にギャンブルを楽しみたいなら仲間内で金を賭けてポーカーなどのカードを楽しめばいいだけなのだから。
んで、この場所だが━━━━とんでもなくウルサイ。
こっちに来てから親しくなったファミリーの構成員について来て覚えたパチンコと呼ばれる日本の遊び…数字が揃うまで玉を打ちこむ遊びらしいが、何が何なのかわからないキースにはその楽しみすらもよくわからなかった。
ひとつわかったのは、どうにもジッとしているだけのこれは性に合わないということ。
怪我ついでにせっかく貰えた休日…こうして消化してしまうのはどうにも勿体無い。
キースは遊技途中にも関わらず、そのまま席を立って店外へと出た。
と、ここで駐車場に車が一台進入してきたかと思うと、男が降りて来てキースに駆け寄ったのだ。
よく見れば、トウキョウからついて来た部下だ。
「き、キースさん!」
「なんだよ急に、気持ちワリ
いな。」
「あ、す、すいません…ついさっき電話があって、キースさんはすぐアメリカに戻る様にと伝言が…。」
それでこの慌てようか。
とりあえず納得はしたものの、それでも疑問を彼に投げつけた。
「何言ってんだよ。俺はまだシャミルを捕まえてないんだぞ?帰る理由がわからん。」
「自分も詳しくは━━━━ただ、キースさんはすぐに帰国。自分達も東京に戻る様にとだけ指示があったんで…何がなんやらって感じで…。」
まあ、こいつはまだファミリーに加わって日も浅い。突然の指示変更や仕事の切り替えは別に珍しいものではないのだが、それに対応できないんだろ。
ただ━━━━『ドラゴン』はともかく、シャミルの件はまだ片付いていないはず。
これほどまでに損害を与えたシャミルをこのまま見逃して何の得があるんだ…シャミルの行動でファミリーにどんな利益が生まれると言うのだろうか。
…ただでさえ乏しい脳ミソなのに、こうも情報が少ないと考えた所で何もわかりゃしない。
キースは訊いた。
「いつここを出る?」
「今日はもう東京行きのチケットが確保できませんでしたんで、明日の夕方頃になりそうです。」
「そっか。それじゃとりあえずホテルまで乗せてくれ。ちょっと電話して訊いてみる。」
最初のコメントを投稿しよう!