Signal fire~狼煙

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「こうしたら落ち着くかなって。」 「見られるだろうが。」 「今更でしょ。」 やがて百合江の抵抗もなくなり、大人しくなった百合江を潮風から守る様にしっかりと抱きしめ直す。 零下の気温で隙間の無い大気上では、霧など発生しない…頭上の天体が今日は見事に見通せる。 耳には船のエンジン音と、船底が海水を掻きわける飛沫の音しか聞こえない。 こんな静かな夜が続けばそれはそれで良いのに━━━━そう思ってしまった信太の身体には、先程から百合江の腰に巻きつくガンベルトがあたっている。 「…落ち着いた。さんきゅー。」 腕を解くと百合江は信太の方を見たので、彼女の瞳を見ながら返す。 「旦那として当然のことをしただけさ。」 「誰が旦那だ…実際のところ、本当にまだ奴が釧路にいると思う?」 「ああ、間違いない。あの兄妹から貰ったデータの日付と今までの情報を照らし合わせて確信した。」 「でも…まだ信じられない。」 ━━━━今回の事件の構図は、きっと誰一人として予想できなかったはず。 でなければ、『アークファミリー』も反抗勢力ももっと被害は少なく済んだだろうに。 ただ、こうして急遽プランを変更してこの国を離れる事になるとはシャミル自身が一番予想してなかっただろう。それはあのデータからもうかがえる。 だからこそ、一撃を見舞うだけの機会が必ずある━━━━。 「さっさと片付けたら、またザラクんとこにでも行くか。ちょっと報告にさ。」 「当然。」 すっかり落ち着いた百合江。 上着から覗く胸元にはシルバーの指輪が、細いチェーンで首からぶら下がっている。 こういう素直じゃないところも可愛いところ。 信太は百合江の頭をぐしゃぐしゃと撫でると、近付いてくる旧港湾地区の廃墟を見た。 「まだ時間はあるけど、問題ないね…ここで待機しよう。始まるまでの時間を楽しむのも狩りの醍醐味だろ?」
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