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耐水、そして防寒の為に寒冷地仕様のウェットスーツを着込み、更に上に防寒着などを身に着けてはいるが、それでもこの季節の海上を走るとなるとどうにも鼻水が垂れる。
━━━━(始まったわ。銃撃…これは港湾警察のだわ。)
無線機につけたイヤホンから聞こえるソフィアの実況。
船の船体を蹴ってジェットスキーを船から話すと、百合江はジェットスキーの船体を揺らしてエンジンを動かす準備を始めた。
そして、ソフィアが呟く様に静かに言った。
(金髪のロシア人━━━━ビンゴよ信太。シャミルの可能性が高いわ。)
2台のジェットスキーが呼吸を始める。
「行くよ!しっかりケツに━━━━」
(待って!あいつ…ビルからビルに飛び移って移動してるわ!)
確かにビル同士が隣接している廃墟群。そう言う事が可能な生き物もいるだろう。
但し、それが人間に出来る芸当だとはなかなか信じ難かった…が、こんなタイミングでジョークを飛ばしてくるような人間にオペレーターを頼んだつもりはない。
ソフィアが続けて報告してくる。
(港湾警察が追跡…ダメ、このままだと見失う!)
間髪いれず、百合江が言う。
「ヤン!行くよ!ソフィア!奴の進行方向は!」
(東方向に進んでるわ!)
急発進するジェットスキーの振動を臀部に感じながらも、信太は自分の携帯電話の着信に気付いた。
取り出して応える。
「はいはい!」
(こっちはハズレだ。そっちは━━━━)
パパパパパパパ━━━━突然の銃撃。
当たらないその弾丸をばら撒いて来たのは、紛れもなくシャミルを引っ張る為にここに来た間抜けな港湾警察の連中。
そいつらの横をすり抜け終えると、少し落胆した調子に聞こえる蒼一郎の声に、ようやく返す。
「ビンゴだ!シャミルがいた!」
(今どこにいる?)
「旧港湾地区東側の廃墟だ!今端末に位置情報を送る!」
片手で百合江の身体につかまりながら携帯電話を操作するのは容易ではない。
どうにかデータを送ると、ヤンが声を上げる。
「上だ!」
ガラガラと崩れて来たのは、廃墟の脆くなった残骸。
紙一重で走り抜けて回避すると、ブレーキを掛けながらジェットスキーの船体を傾けながら旋回。
「シャミル!」
バラララララ━━━━百合江が携行していたマイクロウジが銃弾を撒き散らす。
かろうじで確認できたシャミルらしい人影はすぐに消え、百合江は無線機に怒鳴った。
「見つけた!ヤン!追うぞ!」
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