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「じゃあ、ちょっとばかし頼む。そんなに遅くはならないと思うけどな。」
ダグラスが言うと、連合の男は了解して頷いて返した。
「お留守の間は、シェリルさんをしっかりお守りします。」
「頼もしいな。まあ、あいつぐっすり寝てるから途中で起きたりはしないはずだ。よろしく。」
そうして、ダグラスは隠れ家の前で待つ車に乗り込んだ。
運転席にいるのは、もちろん味方の反『アークファミリー』の人間。
だが、それ以外に同乗者はいなかった━━━━ダグラスがそれを望んだのだ。
「ミスター『ドラゴン』、本当にお一人で行かれるのですか?」
「ああ、別にドンパチやりに行くわけじゃないんだ。送り迎えだけしてくれりゃバッチリさ。」
心配そうな運転手をよそに、ダグラスは手にしていた封筒から書類を出して改めて確認した。
それはジョシュが…死ぬ前に進めていたシャミルとある人物との繋がりに関することがまとめられた文書だった。
もっとも、この文書もシャミルとその人物を結ぶ明確な証拠にはなりえない━━━━ただ、『トンビ』からもたらされた情報とこの書類の内容を総合すれば、その人物が浮かび上がるのは至極納得のいく流れであった。
…どこか遠くでサイレンが鳴っている。日本のパトカーのものらしい回転灯の赤い光も時折見える。
きっと今頃、警察もファミリーの連中も何事かと窺っているだろう。
だが、今日の舞台にダグラスは参加する予定はない。ブッ放したい奴等は勝手にやらせとけばいいし、余所者は余所者らしくもっと別の役まわりに徹するべきだ。
といっても、今やダグラスは『ドラゴン』の名を捨てたも同然のただの1人の男…反抗勢力に何かしてやれるわけではないが、せめて何が自分達の邪魔をしていたのか━━━━それをはっきりとさせてやるだけでも一歩前進になるだろう。
徐々にダグラスが乗る車の周辺にも霧が出て来た。海の方に近付いているのだ。
ふと、ダグラスは言う。
「もし1時間経っても戻ってこなかったら、お前は先に戻れ。」
運転手は狼狽した。
「え、でも、それじゃあ━━━━」
「万が一の話だ。俺が帰らなかったらあいつがわんわん泣くからな。ちゃんと戻って来るさ。」
「お待ちしてます。」
車が静かに停車し、ダグラスは降りて歩き始めた。
周りには霧と潮の香り、そして廃墟がある。
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