Signal fire~狼煙

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…脆くなった残骸の中で響いた声。 程なくして、それに応えるシャミルの声が重なる。 「いやはや、まさかこんなところまで追いかけてくるとは思いませんでしたよ。」 ヤンは右から、信太は正面から当たれ。アタシは左から回り込む━━━━。 ハンドサインで指示を出すと2人は頷いて、それぞれ銃撃をしながら奴が隠れたあの柱へと牽制射撃を行う。 百合江はその左側から、真っ暗な通路を静かに抜けながら柱の陰に回り込んだ。 チェックメイトだ金髪野郎━━━━百合江が飛び出して柱の陰にマイクロウジの9ミリ弾をありったけ叩き込む…が、その弾幕の先に人影が無い事にすぐ気付いた。 だが、何一つ明かりなどあたらない中でマイクロウジの瞬きを視てしまった百合江にシャミルの姿は追えない…すぐに百合江は駆け出した。 「奴がいない!気を━━━━」 …ドンッ。 百合江の背中に衝撃。 何とか足を前に出して踏みとどまったが、そんな百合江の首を誰かの手が掴んだ。 頚動脈が締め付けられ、激しい痛みは骨まで達しそうだった。 「百合江ぇ!」 パンッパンッパンッ━━━━その銃声が鳴ると、首を支点にして持ち上げられていた百合江の身体は振り回され、そしてどこかへ投げ出された。 うつ伏せで地面に落ちるも、しかし反射的に頭は守っていた…手の甲のクッションはお世辞にも柔らかいなんて言えなかったが、それでも頭部へのダメージはまだマシな方だ。 呼吸は整い、頭はハッキリとしてきたが背中の痛みがひどい。発熱すら感じる。 立ち上がって背中に触れた時、理由がわかった。 指先に触れたぬるっとした感触…血だった。 ナイフを好む嗜虐的な性格だったな、あの変態野郎。 「伏せろッ!」 信太が百合江を押し倒し、その頭上を何かが飛んでいく。 マイクロウジの銃声が、ヤンの声と一緒にビル内に反響する。 「嘘だろ!何で死なないんだよあいつ!」 薬の影響だよ、ヤン。 百合江はどうしてか冷静だった。 やがてヤンの方から聞こえていた銃声も止み、そんな3人の目の前にシャミルがどこからか降りてきて着地した。 「おや、弾切れですか。ここまで来る様な方々ですから、もっとしつこいかと思っていたのですがね。」 少しずつ霧が晴れてきたらしく、朽ちたホテルの跡地にも淡い月明かりが届くようになってきた。 そこに浮かび上がったシャミルの風貌は前に見た時と何ら変わらない。
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