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『米印マッスルセンタージム』
そうデカデカと書かれた看板のある、いかにも古めかしい建物の前に私は立っていた。
立て付けの悪そうなスチール製の扉。
男性のものと思われる掛け声。
微かに漂ってくる男むささ100%の筋肉臭。
――さて……、一体この物語はどのような内容なのだろうか。
すまない、説明が遅くなってしまった。
私はこの物語の主人公だ。名前はまだ決まってな――。
あぁ、今某クリエーターから「『由』とでも名乗っとけ」との連絡があったので、これからは「由」と名乗る事にしよう。
それで、今の状態を簡単に説明すると、気が付いたら私は、この筋肉臭の漂う建物の前に立っていたのだ。
先に断っておくが、私はこの建物には興味はないし、用事もない。もちろんそれ関係の趣味もない。
どうやらこれは、物語が始まった合図らしい。
その証拠に、私はこうして普段見向きもしないような建物の前に立っている訳で、今も読者の皆さんに自己紹介やら情況説明やらをしている。
見向きもしないような建物の前に立つのはともかく、明後日の方向を向いて独りベラベラ長い台詞を言うなんて事は普通はしない。
仮に普段からそのような事をしていたら、確実に私は変人扱いされる。
さて…、物語が始まったと言うことは、主人公である私は何かしら行動を起こさなければならない事になる。
現在の状況を踏まえていくつか候補を上げるとしたら――。
①指示があるまで待機。
②その場を立ち去る。
③建物の中に入る。
…の3つが考えられる。
①は指示を仰ぐ相手がいないので当然候補から消されるし、②では態々ここに立っている意味がないので、①同様に候補から消される。
となると……残るは③か。
うーん、正直あまり気が向かないな。
③を選んでしまったたら、何か面倒なフラグが立ちそうな気がしてならない。
本当なら③を選ぶべきなのだろうが、ここは自分の未来を案じて、最も安全性の高い②を選ぶべきか……。
ある意味究極の選択を強いられ悩んでいると、いきなり目の前の扉が開いた。
「いらっしゃい。さぁ、入って、入って!」
中から現れた一人のマッチョなお兄さんが、私に向かって手招きしてきた。
④建物の中からマッチョが出迎えてきた。
①になる可能性も考えていたが、まさか候補外の④になるとは……。
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