はじまり

3/13
前へ
/96ページ
次へ
「どうしたんだい? 入らないのかい?」  爽やかな笑顔のまま、私に手招きしてくるマッチョさん。 「………」  無言無表情のまま、その場に立ち尽くす私。  古びた建物、立てつけの悪そうな扉、男性らしき掛け声、漂う筋肉臭。  そしてマッチョ。  これらのキーワードが導き出す真実は、一体…。 「ジムの前に佇む一人の若者…。これらのキーワードが導き出す真実は一体…」  ムーキムキな腕を組みながら、私と同じような事を呟いているマッチョさん。  だが、彼の示したキーワードは一つしかない。 「君がここに立つ理由は一つ!」  勝手に話を進めるマッチョさん。   「何と言っても、筋肉は漢の浪漫だからね!」  残念ながら私は女だ。 「逞しく引き締まったボディーライン! 力強く盛り上がった筋肉美! これほど素晴らしいものはない!」  言っておくが、私は細マッチョ派だ。 「君もこのジムでムキムキになりに来たんだね?」  どれをどう駆使したら、そういう結論が出るんですか?  「はっはっは、ジムに来た=筋肉を鍛えに来た、だろう?」  わぉ、なんて単純な発想。  さすがは、マッチョ=脳みそ筋肉伝説。 「さあ、僕と一緒にムキムキになろう! 今日から君も、マッチョの仲間入りだ!」  そう言うやいなや、マッチョさんは私の手首を掴んだ。  これはまさかの……。  強 制 入 会 フ ラ グ ? ――待て!!  このままだと面倒な事になると判断した私は、半ば強引に建物の中に連れて行こうとするマッチョさんを止めた。  そして、彼に対し一通り経緯を話す。
/96ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加