キスのループ

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なんでこんなことになったんだ。 「ん、やっとお目覚めか」 重たい瞼を開けた途端、まだ目を閉じているかのような暗がりで、そんな声が降ってきた。 はた、と目が合う。 「………っわ」 驚いて腕に力がこもる。と同時にその腕は強くそいつを抱きしめる形になった。 「なんだ、今日は素直だな」 ほくそ笑んだ顔がぼんやりと映る。 なにが、と言いかけるその口に覆い被さるようにしてキスが降ってきた。 「…っ…ん……」 這い回る舌でさらに意識が朦朧としてきて、さっき力強くしがみついた腕が今にもほどけそうになる。 …もう少しで意識を手放すところだった。 そっとキスから解放されて、ゆっくり目を開ける。 間近にあるそいつの目は俺をしっかり捕らえていた。 は、とようやく自分が抱きかかえられていることに気づく。 「なっ……なんで、こんな、」 なんでこんなことになったんだ。 鈍い思考回路を辿ってみるが思い出せそうにない。 ただ動揺した心臓はいつにも増して音を立てている。 「もうすぐでお前の部屋に着くから」 自分に向けられていた視線が進行方向に移動する。 よく見れば、そいつの綺麗な顔にあちこち傷が見えた。 「…帽子、屋?」 口にした名前は届かなかったのか、そいつは前を見たままズイズイと歩みを早める。 しかし先ほどの視線がまだ俺の胸に刺さったままだ。 …らしくない。 こんなに足早に歩く姿も、傷だらけの頬も、そして、その真剣な目も。 普段の帽子屋とはかけ離れている。 かけ離れ過ぎているから、何だか心臓が落ち着かない。 ピタ、と。 足が止まった。 顔色を伺うようにその横顔を見上げると、そいつは眉を歪めていた。 「…帽子屋」 二度目の名を呼ぶ。 普段なら、もっと大声で降ろせだの何か言えだの言っているところだが、それを躊躇せざるを得ない雰囲気だった。 「…勝手だな」 ぽつりとそいつが呟く。 聞き取れずにん?と返すと、視線が俺に向けられた。 「やっぱり帰さない」 真剣な眼差しに、射ぬかれた。 ドンという音ともに心臓が物凄い勢いで鳴り始める。 目を見開いたままの俺に、そいつはいつもの余裕のある笑みを見せた。 「どうせお前の部屋には帰りを待つ猫やねずみがいるだろ」 そいつは綺麗な顔のまま俺を抱きかかえなおす。 ドキドキしてる自分を認めたくなくて、さっきより近づいたそいつの胸元を突き放した。 「…降ろせ」
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