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「無理に言ってると思うか?」
まただ。本当にこの人心が読めるんじゃ……。と思った所で、修が、お前は表情に出やすいから言いたいことはよくわかる、と言った。
あぁ、なるほど。
「正直……、思ってます。すいません」
「それが普通だ。ホームレスで不幸じゃないとかほざいているのは世界どこを探しても俺だけだろう」
「失礼ですけど、辛いとか思ったりしないんですか?食べ物を手に入れるのにも一苦労するし、世間の目も冷たいのに」
言ってから後悔した。
世間の目が冷たいのはお前もだろ――。
「あるよ。毎日が辛い」
「じゃあどうして」
「辛い=不幸じゃない」
修はきっぱりと言い切った。
「お前は自分の事を不幸だと思っているように見えるが、どうしてだ?」
「だからそれは……」
――金が無いから。
「世の中金。俺もそう思っていた。工場長になって、金もドシドシ入ってきて、これで幸せ者の仲間入り。人生の勝ち組になったんだ俺は。と確信したよ、当時は」
当時――それは修さんがまだ工場で働いていた時の事だ。宇宙開発系の部品を主に取り扱っていて、全国的に見てもかなり大規模な会社だったらしい。それが突如、謎の倒産。修さんは借金に追われ、金が底をつき、車や家、何から何までを売りさばいて、遂に職と全財産を失った。それがちょうど六年前。既に四十半ばを越えていた男を、どこも採用してはくれなかった。よって必然的に、否応なしに、この世界で生きるしかなかった。
「全財産消えたとき、流石に死のうと思ったよ」
こんな暗い話でも、修さんはヤンチャをしていた学生時代の笑い話でも語っているかのように、明るかった。
俺もあと数年経てば、笑い話で済ませられるのだろうか。きっと無理に違いないと雄也は思った。
「適当な例を出そう」
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