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鐘が鳴った。
大地を震え上がらせるような。地下に住む巨人のうなり声のような。
一度、二度。森を抜け、谷を抜け、この場所まで届いてきたのだ。
私は歩みを止め、天から降り注いでくる音色に耳をすませた。
戦慄を覚える。いっつも思うんだけど、誰が鳴らしてるんだろう?
私の時もそうだった。彼の時もそう。
ねえ、この音。
目の前を歩く男の背中に投げ掛けた。
あぁ、またか。最近は多いな。と男は冷めた口調で言った。
でもそのほとんどは巡り会う前に消え去ってしまっているだろう。
目の前の彼は無言で、早足で歩き始めた。私は振り返った。
既に帰る道はない。
風が私の背中を押した。進め。そう語るように。
この世界に朝は無い。時間は無い。希望は無い。
なにもない、 からっぽの。私という"無"。
鐘は鳴る。新たな放浪者を歓迎するように。それはこれから降り掛かる試練の波を予感させる、地獄の音色でもあったように思えた。
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