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本編
「明日の朝には帰ってくるから」
母さんはそれだけ言うと、父さんと2人で親戚の通夜に出掛けて行った。
私は就職試験に向けての勉強で忙しく、朝まで留守番することになったのだ。
けれど、いつものことで慣れてしまっていた。
外で車のエンジン音がして、次第に遠ざかる。
お腹空いた。
枕元の目覚まし時計を見ると、もう7時だ。
部屋から出て、階段の電気をつける。
1階に下りていくと、キッチンだけ電気がつけてあった。
今日の夕飯は何だろう?
そんなことを考えながら、廊下を歩く。
キッチンには、テーブルの上にラップのかかったオムレツがポツンと用意されていた。
母さん、ありがとう。
いつものことだが、そういうときこそ感謝の気持ちを忘れてはいけない。
椅子に座り、スプーンに手を伸ばしたそのときだった。
オムレツの傍らに紙が一緒に置いてあることに気づいた。
紙を引っ張り出して見る。
冷めないうちに食べなさい。それから、帰ってくるまで家から出てはいけません。
母さんの字でそう書いてある。
きっと留守番をしっかりしてもらいたいのだろうと、深くは考えなかった。
紙を横に置き、ラップを外す。
すると、その拍子にケチャップがまるで血のようにテーブルにしたたり落ちた。
今思うと、これが恐怖の始まりを告げるものだったのかもしれない。
オムレツはまだ温かく、かすかに湯気が立っている。
「ピンポーン」
半分ほど食べたところで、玄関のチャイムが鳴った。
突然のことにビクッとする。
車がないことはわかっているはずなのに……一体誰だろう?
気にしないでオムレツを食べ終わる
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玄関に向かう
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