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その日、僕は小さなビルの2階にある書店に佇んでいた。左手に日傘を差し、右手にバイエル教則本を抱え、口に絵葉書を銜えながら。
どうしてそんなことをしているのか、いつからそうしているのか、僕自身にもわからない。
そこで僕は考える。左手に日傘を差し、右手にバイエル教則本を抱え、口に絵葉書を銜えながら小さなビル2Fの本屋に佇んでいることの、意味性について――
外の階段を上がって店にやってきた或る客は、僕を見ると怪訝そうに眉を寄せ、踵を返して去ってしまった。靴音が遠ざかる。
このままでは埒が明かない。僕は日傘を閉じ、絵葉書をバイエル教則本の41ページに挟んで、レジに向かった。
「あの。ちょっとお尋ねしますが――」
僕に話しかけられた店主は、まるで電話機が勝手に喋り始めたのを目の当たりにしたような顔つきで僕のことを見た。だが、そんなことはお構いなしに言葉を続ける。なるべく平静に、さりげなさを装いながら。
「僕はだれですか?」
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