正方形の案内図――或る即興市街の場合

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     僕はびっくりして、大きく眼を見開いたまま動けなかった。だって顔が無いなんて普通じゃないよね?  その来客は僕に眼もくれずに――いや『眼』は無いんだけど――北条探偵に封筒を渡して、軽く会釈すると事務所を出て行った。封筒を手渡すとき、小声で「いつものです」という言葉が聞きとれたが、口が無いのにどうやって喋ったのかわからない。  その訪問者が去ったあと、僕は聞いてみた。 「ねえ、さっきの何? オバケ?」 「何を言ってるんだ。郵便配達夫じゃないか」 「でも、顔が無かったよ!」 「ああ」  北条探偵は訝しげに僕の顔を見ながら、言う。 「そりゃあそうだ。郵便配達夫に顔が無いのは当たり前だろ?」  
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