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嘆息。
「いつまでたっても私の地図は完成しない。規則性。つまりはそれ。不規則と言う規則性の支配。否、ただの言葉遊び。戯言市街の全体像。方形。斜線、斜線斜線そして円形。考え得る最高の幾何……」
何かに憑かれたように線を引き続け、疲れたように呟き続ける北条探偵を見ながら僕は室内で日傘を差してみる。突然、薄暗い室内に花開いた純白の日傘は北条探偵の目を引いたようだった。
「あのさ」
すかさず僕は口を開いた。
「僕、とても困っているんだ。不案内なこの街では右も左もわからない。あなたはこの街に詳しい?」
「……多少はね」
「ちょっと相談に乗ってよ。これからどうしたらいいかな? お金とか全然、持ってないんだ。持っているものといえば、この日傘と、バイエルと、あと絵葉書だけ。階下の本屋さんは有効なアドバンテージだって言ってくれたけど」
「ふん。階下の書店員はいい加減だからな……おや?」
急に席を立った北条探偵は、早足で僕のそばに寄ってくると、突然、僕の手首を掴んだ。
ぎゅっと。
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