93人が本棚に入れています
本棚に追加
湯気の立っていない、たぶんかなり温くなってしまったコーヒーを飲みながらその人は無愛想にこう言った。
「大体、だれが何を考えているかなんて、その顔を見ればわかる。観察の結果だよ」
「へー。それじゃ、いま僕が何を考えてるかわかる?」
「ああ喧しい。遊びなら余所でやれ。これから来客もあることだし、私はあまりにも多忙なのだ。オムライスが食べたいならこのビル1Fの喫茶店に行け」
「えっ何で僕がオムライス食べたいなって考えてるのわかったの? そんな顔してた? オムライス食べたいなって考えてる顔ってどんな顔?」
僕はふわふわのオムライスを頭の片隅に追いやりなから、これはなかなかだぞ……と思った。この人、きっとすごく有能な探偵に違いない。頼めば僕の名前なんて簡単に調べ上げちゃいそうだ。うん。これはなかなかだぞ。
僕が一人で興奮していたそのとき、外の階段を歩く靴音が響いてきた。
「おや来客だ」
書斎机の上を片づけながら、そのひとは立ち上がる。
「やれやれ忙しいな」
Knock.Knock!! 扉がゆっくりと開く。現れたのは灰色のくたびれた背広を来た男のひとだった。北条探偵は事務的な態度で出迎える。
「ようこそ。お待ちしておりました」
「どうも」
冴えない声色、中肉中背、――《顔が無い》という点を除けば全く普通としか形容できないその人物は、些か気落ちした様子でソファの隅っこに腰掛けた。
最初のコメントを投稿しよう!