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 その日の朝、連日の残業続きで透は疲れきっていた。  「こうも残業続きじゃなあ…」  ポソッと周囲にも聞こえない程の声で、呟く。まだ若いから、独身だから、という理由だけで仕事を押し付けられる。そして、人の良い彼はついつい引き受けてしまう。  (彼女もいないし、人付き合いも上手いとは言えないし、仕方ないのかもしれないな……)  内心でため息をつく。そしてチラッと外の景色を眺めてから、座席に視線を移す。  満員電車の中。吊革に捕まっているとはいえ、座りたい。座っている連中が羨ましかった。変わってくれ、と叫びたかった。  本や新聞を読むわけではない。目を閉じていると、電車が急ブレーキを掛けた。透は気を抜いていたので、後ろの乗客に押されてしまい、前の座席に座っていた女性に被さる形で倒れこんでしまった。  「す、すみません」  「いえ……。大丈夫ですか?」  「は、はい」  女性は、驚いていたものの、微笑して気遣った。  透は、気恥ずかしさのあまり、電車が停まっていた駅で降りた。その駅は、いつも降りる会社の最寄り駅の二つ前。気づいた時には、すでに電車は行ってしまった。次の電車でもギリギリ始業には間に合う。そう割り切った。  (何、大事な会議があるわけでも、朝礼があるわけでもない)  それよりも、あのまま気まずい思いをして電車に乗っているよりは、マシだった。やがて次の電車が来たのを見て、乗り込む。こうして透は、気恥ずかしい思いを抱えながらも、いつもの日常を取り戻していった………。
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