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 これが彼女、深山幸子との最初の出会いだった。  「おい、一谷。一杯どうだ?」  「わかった。ちょっと待ってくれ」  あの電車での恥ずかしい体験の朝から二週間は経過して、ようやく透は、あれは事故だった。と、無理やり自分を納得させなくなった頃。  同僚の誘いに乗り、仕事帰りに飲み屋に入った。大衆居酒屋だが、つまみはなかなかイケル。仕事の愚痴をこぼす同僚に頷きつつ、自分も彼女が出来ない事を、同僚に愚痴をこぼしていた透。  「そうか。お前、居ないんだったな。ま、居てもうるさいだけだぞ!」  かなり酔いの回った同僚が適当な事を言う。  (それは、慰めかもしれないけど、ちょっと優越感入っているよな)  透は、そうか。と相槌を打ったが、内心は僻みが入った考えを起こしていた。この同僚、社内恋愛をしているらしい、と噂されている。している、とハッキリ断言出来ないのは、社内恋愛がご法度で、そういう噂自体、してはならないからだ。だが、まぁ噂とは禁止されている事程、良く広まる。  この口ぶりでは、噂は事実だろう。社内恋愛で無いとしても、彼女がいる事は間違いない。  (なんにせよ、彼女居る奴が言っても説得力が無いな)  気持ちが下降気味で、ビールを飲み干して、もう一杯頼もうと、店員を探すように店内を見回した。そこへふと一人の女性に目が止まった。  (忘れたくても、忘れられない)  あの電車での恥ずかしい体験の朝、倒れ込んでしまった相手の女性。そう、透が覆い被さった、あの。  (向こうは気づいていない。見なかった事にしよう)  視線をずらし、店員を呼ぶ。自分と同僚の分のビールを追加した。  「あ、俺、トイレ、行って、くる」   「ああ。気をつけろよ」  「だぁい、じょう、ぶだって」  立ち上がる同僚のフラフラした姿に、透はそう言ったのだが、句読点の付け方が怪しいのを見て、一緒に着いて行ってやった。
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