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菩提寺の住職の読経が始まった。
大勢の方達がお焼香をし、次々に挨拶をしてくれる。
母は一生涯専業主婦で、趣味も然程なく、外出を好んでするほうでもなかった。
ここに集まってくださっている方々は全て、父の関係者である。
それでも、父を支え、会社を大企業に育て上げた影の功労者だったことは間違いない。
そして、私や子供達に愛を注ぎ、いつまでも慈しんでくれた。
間違いなく弘のことも。
住職達の読経が何の蟠りもなく耳を通り過ぎるようになったころ、人の列の中に頭ひとつ飛び出るほど大きく、少し左に傾きながら歩く姿が見えた。
その背の高い男性は、焼香を済ませ、父と一言二言、言葉を交わすと、私を一瞥することもなく家の中から出て行ってしまった。
私は追いかけたい衝動を飲み込み、その場に座っていた。
告別式に高井の姿はなかった。
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