18/19
前へ
/282ページ
次へ
私は、自分の唇で、勇人の唇を塞いだ。 何度も体を重ねたのに、この温もりに触れる事ができたのは、あの甘い夜だけだった。 近づけていた顔を離すと、目を開き、呆然としたままの勇人と目が合った。 「……好きだよ、勇人。 …………………………バイバイ」 駆け出した私の後を、追って来る足音はもう無かった。 「体だけの関係」の中、恋をしてルール違反をしたのは私で、勇人はその関係を徹底しただけで、何も悪くないのかもしれない。 だから最後くらい、私から別れを言ってやりたかった。 それがズタズタになった、私のプライドの一欠けらだ。 さっき触れた勇人の感触が、後を引くようにまとわり付いて、振り払うように夜の街を走った。
/282ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6771人が本棚に入れています
本棚に追加