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私は、自分の唇で、勇人の唇を塞いだ。
何度も体を重ねたのに、この温もりに触れる事ができたのは、あの甘い夜だけだった。
近づけていた顔を離すと、目を開き、呆然としたままの勇人と目が合った。
「……好きだよ、勇人。
…………………………バイバイ」
駆け出した私の後を、追って来る足音はもう無かった。
「体だけの関係」の中、恋をしてルール違反をしたのは私で、勇人はその関係を徹底しただけで、何も悪くないのかもしれない。
だから最後くらい、私から別れを言ってやりたかった。
それがズタズタになった、私のプライドの一欠けらだ。
さっき触れた勇人の感触が、後を引くようにまとわり付いて、振り払うように夜の街を走った。
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