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「お姉ちゃん」
僕が何かを一所懸命喉奥に押し戻していると、鈴の音のように透き通った高い声が耳朶を叩いた。
僕のことをお姉ちゃんと呼ぶ人物は、この世界に一人しかいない。
「今日はさ、パパが……えーと、遊園地に連れていってくれたんだよ」
「そうかい」
僕は剣を振りながら適当に相槌を打つ。するとその行動が癇に障ったのか、彼女が舌を鳴らした。
「今日はいつもより、機嫌が悪いんだね」
「当たり前だろ? 昼にてめえを殴れなかったんだからなぁ!」
そう言ってニヤリと口角を吊り上げる彼女は、もう分かっているとは思うが、妹である。彼女も、母上殿に似て演技が上手い。ただそれを手放しで喜べる程、僕は人間が出来ていないが。
「面(つら)持ってこい、おら」
妹――シーナは、何か苛立つことがあったりした時、時間があると真っ先に僕の所に来る。それは別に僕に甘えてるとかそういった用事ではなく、単なる腹いせだ。八つ当たりや習慣と言ってもいいだろう。全く、いい迷惑だ。時間があると僕を嬲りに来るなんて、本当に血は繋がっているのかと疑いたくなる。温厚な僕と違い、彼女は肉食系という域をマッハで通過した直後だ。
僕は彼女の命令に従い、鉄格子に顔を挟む。これがなかなか興奮するようになってきたのだから、僕はかなり重症なのだろう。
「死ねっ、おるぁ!」
「ぎぃっ」
まあ、鼻への一撃で、それは一気に萎んでいくが。
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