いつだって母は味方でいてくれるとは片腹痛し

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 地面に打ち付けられている水の粒たちを僕も頭から被り、冷ややかな感覚と視線で外に出たことを再認識させられる。  ああ、何日ぶりだろうか。  僕を祝福するかのような太陽の熱は生憎非番のようだ。代わりに僕の気持ちを代弁するかのような土砂降りの雨が、僕に現実だということを教えてくれた。  猛烈に気分が悪い。が、あの日から今日までで気分が良かった日などないので、この調子がデフォルトになりつつあるな。僕は十五年間過ごした邸宅に背中を向け、爽やかな雨降りの街道を歩きだした。  これから五年間、僕は義務付けられた教育を受けることになる。家柄の問題で特待生扱いなのだそうだが、別にそんな物がなくとも僕なら特待生など容易いのに。  自宅から一時間ほど歩くと、山にある小高い丘付近にそれっぽい灰色が見えた。見えた、とは言うものの、木が邪魔してきっちり認識できた訳ではないのだが。  楽しみだな。寮というのはどういうものなのだろう。  僕はしばらく歩き、その建物の前に腰を下ろした。前述したとおり、ここは学園の校舎ではなく、寮生の住む寮である。  おかしいな。話によると、ここには案内人がいるはずなのだが。  ふと寮の方を見てみると、門のところに何か張り紙がしてあった。  そこには『来た人はそこにいてネ! 揃ったら張り紙を外して』と丸っこい字で書かれてあった。勿論のことながら、字はこちらの世界の物だ。  ふむ、ということは今年寮に入る人間の中では、僕が一番先に着いたということか。  そして発見する人影。煌びやかな銀の髪が風に靡いて美しいが、一番に目を引くのは何といってもその背中だ。  細身で小柄な体型と美しい容姿に似合わず、そこには身の丈の二分の三倍はあろうかという槌があった。武器については詳しくないが、ハンマーよりも弱々しく、棍棒よりも小綺麗で……メイス、と表現すればよいのだろうか。とにかくそんな感じに装飾の施された武器に、思わず目を細めた。
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