いつだって母は味方でいてくれるとは片腹痛し

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「あ、あわわ……すいません傷に泥を塗ってしまったようで」 「それを言うなら“傷に塩を塗る”ですよ。……まあ、お察しの通り、僕には魔力がありません」  彼女の言葉に訂正を入れつつ、僕は名前を言わない自己紹介を開始した。彼女は申し訳なさそうに小さく頷いて聞いてくれるが、僕が話し終わると首を傾げた。  何だ? 僕が何か怪しい言動でも……。 「女の子……ですよね?」 「はい、生物学上はその認識で正しいですよ」  どうやら、僕の一人称に疑問を感じただけのようだった。  今僕は作業着を着用していてさらに、くすんだ赤色の髪を腰まで伸ばしている……正確には切る機会がなくて髪が伸びているだけだが、まあそこは気にしないとして、髪が伸びているだけに顔が表に出ないのだ。  そういった諸々の要素を加味して、彼女は僕が女の子だと断定できなかったのだろう。  生物学上は、といった言葉に納得はできなかったようだが、取り敢えず彼女は理解はしてくれたらしい。やっぱり、と控えめに笑った。 「私、フュー・K・ライキと申しますぅ」  K、とは彼女の出身地だ。ここリミネリ国では、領土を二十二個に分割していて、その一つがK――キネだ。そして、僕の出身地もそこだったりする。 「ご丁寧にどうも、僕はシニ・K・……ブラナーと申します」  家名を教えて良いものか一瞬迷ったが、別に止められていた訳でもないので、ライキさんに合わせて自分もフルネームを名乗った。  僕の家名を聞いたライキさんは「あら」と軽く口を開いた。そしてまた、先程までの控えめな笑顔に戻る。 「領主様のところの方でしたか」  領主様、と言われて、僕は半ば無意識の内に顔を顰めた。嫌みではないことは分かっているが、それでもやはりあの家に良い思い出がないのを思い出してしまう。  するとそんな僕に気が付いたのか、彼女は慌てて謝罪の言葉を述べた。  僕も無難に謝罪しておき、二人の空気はまた元の初対面に戻った。  さて、フュー・K・ライキ――彼女は、僕の良き友人として存在してくれるのだろうか。  彼女が僕と一緒に苦しむ姿を容易に想像できる辺り、その可能性が高いのは確かである。
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